正しい姿勢で、よく噛んで食べることの重要性

正しい姿勢で、よく噛んで食べることの重要性
かみかみリレー」を中心に「かみかみセンサー」を使ったよく噛む食習慣の輪を全国の小中学校に広める活動に取り組む安富先生。しかし、安富先生は小学校よりもっと低年齢の時期に咀嚼の意識を高めることが大事だと考えています。

そこで安富先生は、保育園児の咀嚼の実態を把握するため、長野県飯田市にある慈光松尾保育園の協力のもと「かみかみセンサー」を使った効果を実施。装置を初めて目にした園児たちは、どうリアクションし、どんな行動変化が現れたのでしょう。

保育園の現場の先生たちを交えながらお話しを伺いました。

参加者
安富和子先生
学校法人 高松学園 飯田女子短期大学家政学科 保健養護コース教授

草間秀成先生
社会福祉法人 慈光福祉会慈光松尾保育園 園長

伊藤聡子先生
社会福祉法人 慈光福祉会慈光松尾保育園 保育士

寺沢千栄先生
社会福祉法人 慈光福祉会慈光松尾保育園 栄養士


魚のデザインに子供たちは興味津々!
  つけているだけで、噛むことに変化

安富先生
私が飯田女子短期大学にお世話になったのを機に、姉妹園の慈光松尾保育園さんに調査依頼をさせていただきましたが、園としてどう思われましたか?

園長先生
正直、かみかみセンサーをつけながら食べることに子供が怖がったり、不安にならないかと、消極的なイメージでした。実際に緊張している子が最初はいましたが、結果的には心配無用でした。

伊藤先生
はじめて見る装置に子供達も興味を持って装着し、楽しんでやっていましたよ。魚の形のかわいいデザインが親しみやすかったのだと思います。

安富先生

調査は年長さんを対象に、給食1 食の咀嚼回数と食事時間の測定と、姿勢と咀嚼回数の関係も知るために、食べる時の姿勢について、普段の状態と装着をして食べ始めて10 分後の変化を先生から聞き取らせていただきました。

本来かみかみセンサーは、30 回噛むと電子音が鳴り、1,000 回には音楽が流れることで噛むことを意識できる効果がありますが、自然なかたちで測定したかったのでその設定はあえてせず、回数も本人たちに見えないようにしました。

伊藤先生
そうでしたね。でも、「つけてる」ということで噛むことを意識したようで、いつもより回数が多くなりました。普段あまり噛まない子や早食いの子が多いのですが、噛むことを意識する良いきっかけになったと思います。

安富先生
あまり噛まない子や早食いの子はどんな姿勢でしたか?

寺沢先生
私達も給食は子供達と一緒に食べますが、食べる時に足を組んだり、椅子に寄り掛かったり、ひじをついたり、机や椅子の横から足が出ていました。

定着化していった噛むことへの意識
安富先生
姿勢以外に気になる食べ方はありましたか?

伊藤先生

時間がかかることと早食いが最も多く、固い物が苦手、よく噛まないから飲みにくいという子も多いですね。

安富先生
食べ方の指導は難しいという話は他の保育園でも聞きます。「かみかみセンサー」は有効でしたか?

寺沢先生
5 分や10 分で食べていた子が、15 分から20 分かけてよく噛んで食べるようになりました。以前はおかわりが多かったのですが、適量でも満腹になるようです。他の子も随分と改善されました。
 安富先生それはよかったです。子供達の噛むことへの意識はどうやって変化していったのでしょう?

伊藤先生
噛むためには姿勢も大事だよと話したり、噛むことの大切さをテーマに安富先生と学生さんが人形を使って紙芝居をしてくださり、子供達の意識が高まりましたね。薄れる時もありましたが、測定をしてる他のクラスを見てまた噛むことを意識をしていきました。

園長先生

慈光松尾保育園は、「だめな子どもは1 人もいない。ともに生き、ともに育ちあう」という保育理念のもとに、命の大切さ、ありがとうの心を育む保育を実践しています。

食事の時、「いただきます」と手を合わせますが、単なる合図ではなく、元気な体をつくるために魚や肉の命、野菜や果物など自然の恵みをいただくことや、給食を用意してくれる栄養士や調理員・保育士、家ではお母さんやお父さん、すべてに感謝を込めて手を合わせることを毎日しています。そうした中で、姿勢を悪くして食べるのはよくないので、良い姿勢の習慣化をぜひしたいと思っています。

よく噛めば美味しいという発見

安富先生
かみかみセンサーを使うにあたって、給食に工夫はされましたか?

寺沢先生
もともと「8」の付く日は噛む日として、噛み応えのあるメニューをとり入れていましたが、さらに意識しました。

家庭ではスパゲティやカレー、レトルトなど、あまり噛まないものを食べがちですので。

安富先生
確かに、子供の好物って柔らかいものが多いですね。好き嫌いもそれぞれに違うでしょうし。

寺沢先生
はい、年少の子はとくに。野菜が苦手な子が多く、家ではあまり食べないため、給食でなるべくとり入れて薄味で作っています。

安富先生
濃い味付けはすぐに味を感じるので噛まないけど、薄味は噛まないと味がしません。
よく噛むには薄味なんですね。噛むことで変化はありましたか?


伊藤先生
ごはんは味がしないと家でふりかけをかけていた子に、「よく噛むとそのままでも味がするよ。あまり噛まないと味がしないよ」と話したところ、「よく噛むと甘いんだね」とか、お味噌汁の具に入ってた煮干しを「よく噛んだから美味しい」と言ってくれたり。早く食べる子にもっと噛もうって子供同士で声がけもしてました。

すべては食育につながる保育
安富先生
給食に同席させていただきましたが、レバーが出てきて、「食べたら何になるんだっけ?」と聞いてましたが、あれは毎食されているのですか?

伊藤先生
はい。食べるものにも興味を持って食べて欲しいので、なるべく心がけています。ご飯を食べると速く走れるよとか、プールの時期には、お魚食べるとお魚みたいに元気に泳げるよとか、分かりやすく言います。

園長先生
園の敷地に小さな菜園を設けてトマトやナス、ピーマンといった野菜を子供達が育てていて、収穫した野菜は給食で出しています。また、田んぼをお借りしてお米づくりもしています。自分たちが世話をした野菜となると、たとえ苦手でも自然と口にしますし、大切に食べよう、残すのはやめようという気持ちも育まれています。

安富先生
体験学習を通して、食べられるようになるなんて素晴らしい食育活動ですね。こちらでは食育を軸に、子供達の心と体を育てる保育活動がなされているのですね。ただ噛むだけではなく、食事も大事にできるかみかみセンサーお役に立てば嬉しいです。

噛むことの意識を次は保護者へ
伊藤先生
かみかみセンサーを使わせていただいたり、噛むことと姿勢の関係のお話しを伺ったことで、子供達に意識的に声を掛けられるようになりました。

寺沢先生
私も以前から噛むことへの意識はありましたが、この調査を通じてますます意識が高まりました。


園長先生
現場の意識は高まったので、次は私たちが保護者に対して啓蒙したいですね。噛むことの大切さをあまり発信していませんでしたが、家庭でも意識してもらえるよう伝えたいと思います。